2011年8月20日

富士山ガイドと「ありがとう」

7月中旬から8月中旬まで富士山でガイドの仕事をしてきました。富士山5合目から頂上までの往復15時間の行程、20名から40名のお客様をガイド1人(たまに2人)で案内する仕事で、今回は、1ヶ月間で15回ほど登頂しました。

山小屋がたくさんあり、登山者の多い富士山とはいえ、ご案内するお客様の中には、運動を普段しないし登山が今回はじめてという高齢者の方もおり、その日はじめて会った人をこれだけの人数、ガイド1人ないし2人で案内するのは、けっこうなハイリスク。

初対面のお客様とコミュニケーションをとりながら、お客様全員の体力、体調を見極めて、天候の判断、状況の総合的判断をしながら、他のガイドとの連携のもと安全にお客様を案内するというこの仕事は、将来、多数の患者さんと接し、様々な条件を総合的に考慮に入れて、判断を下さなければならない医療者に通ずるものがあると思うし、緊張感のある、自分が成長できる貴重な経験でした。

ガイド自体は、とてもお客様から感謝のされる仕事です。下山時は社交辞令であっても「ガイドさんのおかげで登頂できました」と必ずと言っていいほどお客様は言ってくれます。後日、感謝の手紙やお土産を送ってくれるお客様もいらっしゃいます。とても「やりがい」のある仕事と言えるでしょう。

しかし、今回同時に感じたことは、決してガイドだけでこの仕事は成り立っていないということです。このことは、ガイドの仕事を取ってきてくれる山小屋の社長からの言葉でもあります。「ガイドは感謝されて当然なんだ」というのが社長の言葉です。

仕事をとってきてくれる山小屋の社長、バスの集合場所から登山の行程を一緒に登ってくれる添乗員さん、登山道具のレンタル業務など様々なサポートをしてくれる方、山小屋で食事を作ってくれる厨房の方、小屋出し、小屋入れ、寝床の準備、食事の準備をしてくれる番頭さん、リタイアするお客さんを受け入れてくれる他の山小屋の方、頂上での休憩場所を提供してくれる山小屋の方々、ガイドが5合目で休憩できる場所を確保してくれることに協力してくれる方々、そういった多数の人の協力なしには、下山後のお客様から自分達ガイドに向けての「ありがとう」はないのです。

自分達は、直接「ありがとう」をお客様から頂くことができますが、前述の方たちには直接、お客様からそういった言葉を聞くことのできる機会はないかもしれません。だからこそ、関係者、この仕事を成り立たせてくれている方々一人ひとりに、ガイドから「ありがとう」をお客様の代弁として日々、伝える必要があるのだと思います。

医師は患者さんから「ありがという」を一番多くいただける立場にあるかもしれません。将来、この富士山ガイドで感じたことを忘れず、一緒に働く仲間全員に、患者さんからの「ありがとう」を代弁できる医師にならなければならないと学んだ夏でした。